2015年10月12日月曜日

日本の市民運動について

本当は研究を進めないといけないんだけれども、今日はやる気が起きないからブログを更新。

こんな記事を見つけた。

「国際NGO職員が国会前デモに参加して感じた「違和感」とは」
http://blogos.com/outline/138501/

ほぼ内容に同意したし、思うところがあったからブログを書いてみる。
ちなみに、今回の記事は特定の政治主張に関する市民運動を想定していない。右派だろうと左派だろうとあらゆる主張を展開する市民運動を対象とする。

記事に書いてあるとおり、各国の市民運動を見ていて、その目的が達成されるか否かに「ロビイングが上手くいったか」「与党側の有力者に接近したか、できたか」といった要素がある(台湾のひまわり運動とか)。結局、シュプレヒコールをあげただけでは、現状は変えることができない。

ここから一歩進んで考えてみる。日本の市民運動は、その主張の実現を望んでいるのだろうか。左翼系の団体なら、SEALDSをはじめとした国会前での抗議運動が一つの例だろう。右翼系の団体でも、国民の祝日に凱旋車に乗って、拡声器で政治的主張を声高に拡散している。こうした団体に共通しているのが、政治的主張を拡散しているだけに見える点である。

SEALDSが対象になって申し訳ないのだが、その活動の知名度が高いだろうから、例にしてみよう。SEALDSは、各地での抗議運動だけでなく、民主主義の価値をもう一度考えてもらおうといった趣旨の運動も行っている。ただ、安保法案に反対、という主張を実現するためには、もっとできることがあったはずだ。たとえば、自民党や公明党の有力者とにロビイングを行い、複数の法律の束であった安保法案の中で特に反対の部分(集団的自衛権に関わる部分)を別にした議論を求める、ということは可能である。これに自民党や公明党が応じないなら、それをマスコミに流せばいい。少なくともSEALDSは、真摯に対応しようとした、という姿勢を見せることができる。但し、今回のSEALDSに関連する一連の報道を見て、有力者にロビイングしたという記事は見ていないし、Twitterを見てもロビイングした痕跡はない。同様の姿勢は右翼団体にも見られる。彼らの主張は、南京事件などの歴史問題から北方領土などの領土問題に至るまで多岐にわたるが、どれほど真剣にロビイング活動しているのだろうか。

こうした活動に共通するのは、自らの政治的主張を実現するのではなく、主張するのに留まっている点である。政治とは限られた資源や政策の範囲で、妥協を繰り返す過程である。つまり、右翼だろうと左翼だろうと、自らの政治的主張を完全に実現することは不可能に近くて、何らかの妥協が必要になる。この基本を本当に理解しているのならば、ただシュプレヒコールするだけでは全く不十分で、ロビイング活動をする必要がある。

さらに、より専門的に言うならば、世論の動向を踏まえてMedian Voterへのアプローチも重要な要素である。自らの政治的主張の殻にこもっていても、何らかの政治的主張を実現するのは困難である。戦略的に行動するならば、中道派にアプローチするため、政治的主張を穏健な形で伝えることも不可欠である。SEALDSは、市民運動を身近なものにした点では成功したが、「デモに参加しないのは安倍の支持者」「こういう国難にデモに来ない政治学者は存在意義がない」という類の言動を繰り返すSEALDS周りの人々(SEALDS内部の人もいるのかもしれない)がいたせいで、デモに参加しないものの安倍政権に批判的な中道層の掘り起こしに成功しなかった。右翼団体の中にも、レイシストとしか思えない発言を繰り返し、良心的保守が離れているものが多い。

以上の議論を合わせると、結局のところ、政治は何らかの妥協の産物であり、ロビイング等を通じて、なるべく多くの「味方」を確保することが重要だということになる。妥協とは言っても「味方」が多ければ多いほど、有利な形での妥協、完全勝利に近い形での妥協を引き出すことができる。そして、いつも不思議なのは、右翼団体も左翼団体も中道派を取り込もうとしないことだ(ようにしか思えない)。さらに、活動方針には批判的なものの主張には賛同する、といった人々を排除しようとする[注]。自ら「味方」を減らし、団体の活動が先鋭化していく。これでは政治的主張を実現できるわけがない。

そこで、最初の疑問に戻るわけだが、本当に政治的主張を実現するのが目的なのだろうか。ここからは単なる疑念だが、単に主張すること、若しくは他の類似団体との競争が目的になっていないか、という思いを抱いてしまう。数十年前の左翼の内ゲバもその一種である。右翼だろうと左翼だろうと、市民運動が健全に機能している社会を私は望む。右にも左にも振れ過ぎた活動は不要だ。

[注]詳述しないが、主張をより広めるために活動方針の改善案を示すと、「いちゃもんを付けるとは隠れ安倍支持か」「SEALDSの足を引っ張るな」という返事が返ってくることが多い。これでは、心ある支持者は離れるし、それを見ている中道層もドン引きする。しかし、活動の中にいる人間はそれを分かっていない。