2015年5月25日月曜日

舞台「幕が上がる」を終えて

(追記1: 2015年6月1日)

夜遅くなってしまったけど、とりあえず未整理の状態でも今日中に書けるところまで書いとく方が良さそうだったので、書き残します。

ブルーシアター六本木で6月24日まで上演していた舞台「幕が上がる」についての感想です。映画の方は、「考察」としておきました。映画については過去にも分析して卒論も書いたことがあるので「考察」としましたが、演劇に関しては昔携わってはいたものの分析の対象としたことはないので「感想」としておきます(映画の「考察」についてはこちら)。

そもそもの発端は、「極楽門」を貸してくれた友人が、チケット取れたから観に行こうと誘ってくれたこと。かつてお芝居を作る仕事をしていた身としては是非とも行かねばということで、17日に観に行きました。あと、もっかい観に行きたいなあと思ったので、千秋楽のLVも今日参加してきました。
端的に言うと、贔屓目なしに見ても良い舞台だったと言えるのではないかと。ももクロの5人は映画の撮影から少しずつですが徐々に演技力がついてきたと思いますし、何よりも周りを固める1年生・2年生は素晴らしい脇役でした。実は映画版の考察を書いたときに演技力については言及しませんでしたが、それは映画の段階ではももクロの5人の演技力にまだ難があると感じたからです。映画は編集やカット割で誤魔化せる部分もありますが、お芝居は生物で舞台上にいる限り常に見られる状況にあります。そのお芝居に特有の状況下でも、映画のときよりかなり演技が良くなっていました。映画のときは黒木華やムロツヨシといった強力なワキがいましたが、今回は平均年齢25歳にもいかないメンバーでこれだけの締りのある舞台を作り上げたことに驚きです。

演技力は人それぞれ好みや評価が別れる部分ではありますが、台詞の読み方や表情の作り方、身体の動かし方、他の役者の言動への反応の仕方といった評価基準は割と万人に共有されるかなあと思うので、今回はちょっと言及してみます。
ももクロの5人の中では、特に玉井詩織の芝居が非常に気に入りました。最後の独白が続くシーンがあれだけ印象に残る場面になったのは彼女の演技によるものが大きいと断言できます。声量・滑舌も申し分なく、独白の場面なので台詞が駆け足になりがちですが、間をしっかり取れていました。何とも形容しがたいところですが、感情が台詞に乗って伝わるようになったと思います。
5人の演技力が成長しているのを感じましたが、それを踏まえても未だ成長途上の部分が大きく残っています。特に、他の役者が話しているときの演技や反応にちょっと不自然なところがあったのは事実です。日常会話においても、相手との関係性や相手の性格によって、自分の返事の仕方や返事のタイミングは変わってくるでしょう。玉井詩織の独白をはじめ、他の役者と合わせる必要がない部分では非常に良かったのですが、相手との会話や台詞が無いときの振る舞いは難しいもので、彼女たちもこの点に関しては成長途中かなあと感じました。特に、会話部分ではテンポを乱してしまうことが多々ありました。
そこを補っていたのは青年団をはじめとする脇役の面々でした。全体で見れば登場時間が短くても、役者が多く出るという自然な流れを作るのが難しいシチュエーションで、5人をしっかりサポートしていました。繰り返しになりますが、特に舞台で難しいのは、相手の台詞や行動に合わせて対応するところで、反応が早すぎても遅すぎても観ていて違和感を覚えてしまうものです。そんな中、舞台慣れしていないももクロの5人がちょっと間を崩す場面があっても、脇の7人がテンポや間を上手く調整し、舞台の先輩としてフォローしていました。たとえば千秋楽でも、最初の場面で百田夏菜子が「信じてついてきて下さい」と、それを言った後の佐々木彩夏の「はい」は両方とも間が悪かったですが、2年生か1年生の誰かがすぐに「はい」を上手く続けてテンポを元に戻していました。
中でも特に印象に残ったのは、高田役の伊藤沙莉と八木役の板倉花季、成田香穂役の井上みなみの3人です。後ろの2人は青年団かな。3人とも、相手の演技に合わせた反応が自然に表現されていたと思います。ももクロの5人が生き生きと演技できたのは彼女たちをはじめ、脇役の面々のおかげでしょう。

あとは、幾つかの雑感を。
まず、生とLVとを両方観た改めて感じたのは、映像とは演出家や監督の観せたいものを観ているんだなあということ。LVはカット割があるため映画に近くなる訳ですが、その結果演出家や監督に誘導されます。LVの方が泣けたというお客さんも結構多かったんじゃないでしょうか。
もし映画と違う点があるとするならば、各シーンにおいて、どのカメラの捉えるショットを使っているか、役者が知らない可能性があることです。映画とは異なり、毎回毎回、舞台上での立ち位置や向きに若干の違いが生まれるため、どのカメラの画を使うかは臨機応変に変更させないと行けないところも大きいはず。となると、各役者はLVで舞台上のどこを切り取られているのか完全にはわからない。その結果、映画以上に緊張感のある演技を観ることができたかもしれません。
LVに関連して、一つ気になったのはカット割の多さ。映画では、あんなにカット割せずに冗長とも言えるシーンが多い本広監督が、LVではアップを多用しカット割を増やしていました。台詞のある役者以外の反応を観たいシーンもあるので、ミディアムくらいのショットでもう少しカット割を減らした方が観やすかったかなと思います。

あとは細かいことですが、メイクのこと。生で観たときには濃いなとか感じず、高校生という役柄に合ったちょうどいいメイクだなあと違和感なく観ていたのですが、LVだと若干濃い笑 特に有安杏果。目のラメも観えていて不自然だった覚えがあります笑
宝塚が代表的ですが、舞台の場合、遠くの観客にも表情がわかりやすいよう、大げさにメイクをすることが多いです。ただ、LVだとアップが多くなるため、映画で使わられる程度のメイクで十分ということなのでしょう。舞台をLVで観て改めて気付かされた点でした。

最後に見せ転換について。個人的な印象としては数年前から採用する部隊が特に多くなっている気がしていますが、やるならばもっと洗練させた方が良かったと思います。暗転して演出部の人にやらせてもいい転換を敢えて役者がやるということは、観ている方はそれなりに見え方に期待をします。キューブを持ち上げる動きや下ろす動きを揃えたり、歩調を揃えたりすることで、転換が締まり、お客さんの集中力を途切らせない演出になったかなあという感じます。

あと映画に引き続き、脚本上のストーリー展開が飛び飛びなのは気になりました。たとえば、有安杏果演じる中西さんの心情の変化は、「試験前最後の稽古→カラオケボックス→エンディング」とどのように展開していたのか、台詞を言えないほどの蟠りは彼女の中でどのように昇華されたのか、ちょっと表現が不足しているように感じました。
ただ、この脚本の説明不足な点は映画でも共通であり、平田オリザの劇作家としてのポリシーも関連しているのかと思うので、ちょっと彼の本を読んでから、もう一度考えてみてもいいかな。

と、以上のように、つらつら書いていきましたが、「幕が上がる」は映画よりも舞台版の方が圧倒的に良い作品でした。1年間の撮影や稽古を通じて、映画の時点では成長が不十分だったのが舞台版の稽古で身についてきたのでしょうか。先日の「日経エンタテインメント!」で、アイドルが舞台をやるのは演技力が(比較的短期間で)向上すると期待されるからだ、という記事がありましたが、まさにその通りでした。ももクロの五人の中なら、玉井詩織や有安杏果の二人は今回の演技力に磨きをかけることができれば、映画でも舞台でも活躍の場が開けると思います。また、脇役ならば伊藤沙莉や板倉花季も今回の舞台でかなり株を上げたはず。

それにしても27公演をやりきったのは凄いものです。いろんなメディアで裏方を経験して振り返ると、舞台は他のメディアと比べて役者の消耗度が圧倒的に高いと感じます。マチネ(昼公演)とソワレ(夜公演)の間に昼寝する役者さんもいたりするくらい。ももクロは公演期間中にライブも挟んでいたし、主演だから登場時間も長いしで、本当に彼女たちの体力の無尽蔵さを感じました笑


最後に、この「幕が上がる」プロジェクトが成功だったかどうかは、今後の高校演劇や中小規模の演劇への注目がどの程度集まるかにかかっているでしょう。ももクロのファンにとっては、「幕が上がる」プロジェクトは単にももクロの成長過程の一部という認識かもしれませんが、演劇関係者としては小屋(劇場)に少しでも足を運んでもらいたい、という思いの詰まったプロジェクトでした。文藝春秋の別冊で平田オリザ特集が組まれていましたが、「幕が上がる」を「当てたい」と思って本広克行に映画化を依頼したというエピソードが載っていました。平田オリザは演劇を一般市民にも広く楽しんでもらえるよう、劇場に来てもらえるよう活動を続けていることで有名ですが、その彼にとって「幕が上がる」プロジェクトも演劇の良さを広める活動の一環だったのでしょう。このプロジェクトが演劇ファンの裾野を広げる役割を果たせたのか。もし「幕が上がる」を機に観劇へのハードルが一気に下がったとしたら、このプロジェクトは、ももクロの一作品という枠を超えて、大成功と言えるものになるでしょうし、(元)舞台関係者としてはそうなるよう願っています。

追記1(2015年6月1日)
大したことではなくて申し訳ないのですが、Twitter見てると、舞台に出演したいた女優さん方の知名度がモモノフさんの中でうなぎ登りですね。ももクロ関係ないツイートでも、明らかにリツイートとお気に入りの数が増加しています。特に伊藤沙莉や芳根京子辺り。「幕が上がる」の脇を固めていたのは、この年代の中では実力派と目される女優さんばかりでしたので、このようにして知名度が上がっていくのは嬉しい事ですね。是非モモノフさんにはもっといろんな舞台を見に行って欲しいです。

0 件のコメント:

コメントを投稿